工房中川

木そのものの色合いと感触を大切にした木地玩具を作る、塩竈市舟入在住の中川政則さんの工房を訪れた。なんともいえない木の香りに包まれて、中川さんはまるで愛おしい子どもをなでるように木地玩具を磨いていた。

偶然出会ったこけしに一目ぼれ、すっかり「木」のとりこに

工房中川「最初はこけしの魅力に惹かれたことがきっかけだったんです」中川さんは木地玩具を作るようになった経緯を語り始める。

趣味のスキーに出かけた帰り、偶然出会ったこけしに魅了されたのがはじまり。それが昭和45年の冬。当時は第2次こけしブームの真っ只中で、人気のある工人のものはなかなか手に入りづらかったんです。欲しいこけしを手に入れるには直接工人のお宅に行くのですが、すぐに購入できるわけでもなく、1本買うのに2度3度と足を運ばなくてはなりません。私も遠刈田や鳴子には何度通ったかわかりませんね」そのおかげで、たくさんのこけし工人と出会い、親しくなった。そして何よりも、こけし工人がコマなどの木地玩具も作っていることをその付き合いの中で知ることになる。

「遠刈田の新地というところは木地師の集落といわれたところで、コマはもちろん自動車・汽車・ダルマ落としなどを作っている工人がいました。その素朴で丸みをおびた木地玩具に、妙に親近感を覚えました。何回か工人の作業を見ているうちに自分でも作ってみたくなったんです

木の美しさ、やさしさをたくさんの人に感じてもらいたい

工房中川その後、休みを利用して製作を続け、孫ができてからは、その孫が喜びそうな物をと思い、オリジナリティを意識して作るようになったそうだ。ちょうどその頃、塩竈市公民館館長から『作るだけではもったいないから展示してみんなに見て貰ったら』という誘いがあった。「1回だけの展示のつもりでしたが、見た方々から『木の美しさを見直した』『木の感触に感動した』『定期的に展示してほしい』などの声も寄せていただきました」

中川さんは〈さくら・かや・ひのき〉などを削ったときの独特な良い香りに、思わず深呼吸をし、しばしの間、その香りに浸ることがあるという。「木が持っている“温もり”は、なんともいえない安定感を与えてくれます。山々の木々は、私達に緑をはじめ色鮮やかな紅色などで四季を伝えるばかりか、環境問題に関しても様々な恩恵を与えてくれるんです。時代とともに遊びが変わり、材料もソフトビニール・プラスチックなどが主流となっていますが、だからこそ木の良さを見直してほしいとの気持ちは益々強くなっています

〈積み木〉で養う、子どもたちの素直な感覚

工房中川現在、昔からの子どもの玩具である〈積み木〉のすばらしさを改めて感じているという中川さん。「三角・四角など単純な形を組み合わせることによって、色々な物を作ることができる〈積み木〉は、玩具の原点だと思います。子どもに対して完成された物を与え過ぎていることが、本来持っている想像力、創作力などを摘んでいるのではないでしょうか。

〈積み木〉は、一つ一つは単純な形をしているのですが、作ることの楽しさと、出来上がったときの喜びを教えてくれる身近な遊び道具。単純だからこそ自由な発想ができるし、知恵と工夫が必要です。こんなにすばらしい見本がありますので、私もできるだけシンプルで子ども達に夢を与えられるような玩具作りができたら良いなと思っています。そしてこれからも、塩竈の子ども達に物を大事にする大切さ、作る楽しさ、さらには出来上がったときの喜びを伝えていきたいと思います」

text:落合次郎 photo:大江玲司 取材日:2013年2月6日

プロフィール

工房中川
  • 中川政則(なかがわ まさのり)
  • 1948年塩竈市出身。1970年頃より、東北地方の郷土玩具である伝統こけしの魅力に引かれ、収集を始める。同時に、こけし工人が作る素朴で温かみのある木地玩具にも興味を持つようになる。1983年頃から、趣味で木地玩具を作り始める。2003年から2009年まで、ふれあいエスプ塩竈にて幅広いテーマで制作・展示。
  • 住所:工房中川「塩竈市舟入二丁目1-15-6」
  • 「木は自然の宝物」
  • 木は自然が作り出したすばらしい素材ですが、限りのある資材でもあります。できるだけ無駄なく、丁寧に扱わなければならないと改めて思っています。なお、玩具には自然の良さを生かすため、原則的に何も塗っておりませんが、種類によっては無公害の天然塗料(無色)を使用している作品もあります。大人も子供も、是非、木そのものの感触をお楽しみください。