本間知里

塩竈市本町の壱番館内にある「まちカフェ 竹下園」。2013年にカフェとしてオープンしたこの場所ではその後、編み物やパッチワークなどの体験講座が定期的に開催されるようになった。2017年4月、このスペースを運営する本間知里さんに話を聞いた。

母の遺志を実現したかった

本間知里本間さんの実家は、塩竈市港町にあった茶舗・竹下園。本間さんの両親が2009年に営業をやめてからも、そこは近所の人や馴染みの客が集まる「お茶飲み場」となっていた。

しかし2011年の津波で実家は全壊し、両親は転居。母親の竹下雅子さんは、「震災で散り散りになってしまった人たちが『お茶飲み』に集まれる場所をもう一度作りたい」と知里さんに語っていたが、同年10月、急病で帰らぬ人となった。突然の別れに一時はふさぎ込んだ本間さんだったが、母の遺志を形にしたいと奔走し、2013年の9月に「まちカフェ 竹下園」をオープンさせた。

「正直、私はカフェのことなんて何もわからなかったんです。でも母が亡くなって、『作らなきゃ』っていう思いに突き動かされちゃって。勢いだけでオープンにこぎつけました」

訪れた人の求めるものが形になっていく場所

本間知里オープンして間もなく、客の一人が、店内に飾ってあったプリザーブドフラワー(特殊な加工で保存性を高めた花)に興味を示した。「私も欲しい」という声はすぐに「自分で作ってみたい」という声に変わった。本間さんが講師を招きプリザーブドフラワーの体験教室を開いたところ、それが好評。その後も次々と講座が生まれ、現在ではパッチワーク、編み物、和小物、小筆など約10講座が開講されている。

店では介護や認知症などの話題が出ることも多い。本間さんは、認知症について語り合える場にしようと「認知症カフェ」の時間を設けた。その後「認知症カフェ」にはケアマネージャーや薬剤師などの専門家も参加するようになり、今では誰でも専門的な話を聞ける時間になった。本間さん自身も大学に通って福祉を学び、2017年3月には社会福祉士の資格を取得した。さらに現在は介護予防運動について勉強中だという。近い将来、自らが講師となって介護予防・認知症予防の講座を開講したいと考えている。

つながりが生まれる瞬間がある

本間知里90代の元教師と70代の元生徒の偶然の再会など、思いがけない出会いがここにはあります。その瞬間に立ち会えると、本当にうれしいですね」。と、本間さんは「まちカフェ」経営の魅力を語る。

店を訪れる人が持ち込んだ塩竈の古い地図が新たな出会いを生んだこともある。地図を見た別の客が、記憶をたどり、覚えていることを話し始めたのだという。

「当時のことを思い出しながら話す皆さんの顔がキラキラしているのが印象的でした。昔の塩竈のことを語り合うことでお客さん同士がつながれるんですね。それに、思い出すことで脳が活性化するので、認知症予防という意味でも効果があると思います」。店に持ち込まれた地図や写真は、市内の文化施設などとも連携して蓄積に努める。「古い資料を通じて世代を超えたつながりが生まれ、塩竈の歴史が後世に伝わっていったらいいなと思います」

カフェのオープンから3年半が過ぎた。「続けていると、次から次へと縁がつながっていく。だから、つながりを切らしちゃいけないな、と思っています。きっと、天国の母に導かれているのでしょうね」

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2017年4月24日

プロフィール

本間知里
  • 本間 知里(ほんま ちさと)
  • 1966年塩竈市生まれ。夫が経営する医院に勤める傍ら、「まちカフェ 竹下園」を経営する。
  • 【店舗情報】
  • 店名:まちカフェ 竹下園
  • 住所:塩竈市本町1-1 壱番館1階
  • 電話:022-365-1041
  • 営業日:火・水曜、第3・4金曜
  • 営業時間:13:00〜17:00