横田善光

今回の震災で、発生翌日には放送を再開させ、市民に貴重な生活情報を提供し続けてきた。塩竈のコミュニティエフエム曲“ベイウェーブ”。運営面から番組の企画制作、パーソナリティーも務める横田善光さんは、あの日から160日間連続でラジオの放送、そして被災者への情報提供に身を投じた。苦闘ともいえるその6ヶ月を振り返ってもらった。

テレビも映らない、電話も通じない。とにかく、ラジオで情報発信しなくては…。

横田善光震災の前々日、3月9日に三陸沖で地震が発生、津波警報が出た。結局その日の津波は来なかったのだが、これまでにも注意報は出たものの一回も来たことが無かった。「いま、思えば、9日の警報で来なかったということに安心してしまったということはあると思います。まして2日前のことだから、3月11日のあの時もやはり、“またか”という意識は少なからずあったでしょうね」。

3月11日の地震発生時、横田さんは尾島町にあるスタジオにいた。遅い昼食を済ませた後、金曜日ということもあり、週末の番組の構成などをパソコンに向かって組んでいた時だった。「ラジオ局なので緊急地震速報の機器はありました。それが最初は震度3の速報が出て、そしてすぐに震度5、その後震度7と上がっていったんです。その時にはもう揺れは半端ではなかった。マイクをあげて、すぐにしゃべれるようにセッティングしましたが、その直後に停電になったので放送できずじまいでしたね」。

放送開始までの苦闘。防災エフエムとして認可を受け、被災地情報が充実。

エフエムベイエリア横田さんがスタジオに戻ることができたのは翌日のことだった。「地震当日の夜中に神社から降りてみたのですが、まだ水が引いてなく、スタジオまではたどり着けません。神社で一晩を過ごし、翌日の朝になんとかスタジオまで行き着くことができました。スタジオ内は、まず床に置いていた機材はほとんどダメでしたが、幸い送信機が無事だったのでほっとしました。送信機とマイク、ミキサーがあればなんとか放送はできる。後は電源だけだと思い、市役所の防災課の村上さんにお願いしに行ったら防災無線がダウンしているので、本局の電源だったら使用できると言われ、じゃあ市役所にスタジオ作ってそこから放送しようということになったんです。」

ベイウェーブの送信用アンテナは市内のマンションの屋上に設置しており、それこそ100Kg以上あるので移動させるのは困難。そこで、テレビの受信用アンテナを加工して急遽作り上げたそうだ。3月12日の午後1時にセッティングを開始。スタジオ用に借りた一画の隣では、市の防災対策会議が行われていた。「一応、市役所の場所を借りるということで、佐藤市長に挨拶しにいったんです。最初は“放送できるのか?”といわれ。なんとかできることを伝えたら“よろしくたのむ”といってがっちりと握手をしてくれました。その時の市長の顔は今でも忘れられないですね」

とにかく最初はライフライン情報。ツイッターの拡散ぶりには驚かされました。

すべてのセッティングが終わり、放送を開始したのが夕方の6時40分。最初の放送内容は「対策本部ニュース第1号」ライフラインの情報、電気・水道・ガス・電話などの状況。市の防災課と一緒になって情報を収集した。「3月16日から立ち上げたツイッターによって、いろいろな情報が入るようになり、逆にラジオやってるよ、という情報も拡散できたことがよかったですね。電話もメールもないところでツイッターのチカラはすごかったと感じました。

また、震災後、忘れられない日が3月18日。ちょうど1週間後のこと、市役所の衛星電話から総務省の東北電波管理局に「災害エフエム」の認可をお願いした。それまで出力は10Wでしたが、それを100Wにしてほしいと。市役所の担当からも連絡を入れてもらって、なんとか認可を取り付けることができました。さらに、業者のかたから100Wの送信ができるアンテナも調達できることになり、より広いエリアで流せるようになったんです」

市民の心の支えになるラジオ局を目指して。より使命感をもって放送を続けていきたい。

休むことなしに放送し続けたベイウェーブ。落ち着いてきたのは3ヶ月目ぐらいだったそうです。「3ヶ月の節目で特番を放送したのですが、ありがとうというメッセージをたくさんいただきました。改めてラジオというメディアがライフラインの一部として受け止められたんだな、と気づかされました。さらに、これからもどのようにして市民の支えになって言ったらいいのだろうということも考えさせられましたね」。

震災から半年、市役所の4階を間借りして放送を続けたベイウェーブ。9月からは、新たにスタジオを作り、放送を続ける予定だ。「もうだいじょうぶという油断も禁物。どこか張り詰めた気持ちでいないと、という緊張感を心の隅に持っていたいと思います。また、ラジオという媒体は、インターネットなどに押されて沈滞気味で、もっとPRしなきゃという思いを常々持っていました。しかし、今回の震災によってこれだけリスナーが頼りにしてくれるんだということがわかり、価値観が180度変わりました。なおさらシビアにやっていかないとと思いました。注目されているだけにプレッシャーも感じます。まあうれしいことですけれどね。」

text:落合次郎 photo:大江玲司 取材日:2011年8月20日

プロフィール

横田善光
  • 横田 善光(よこた よしみつ)
  • エフエムベイエリア株式会社 専務取締役
  • 塩釜市出身。東北学院大卒。コミュニティーFM「ベイウェーブ」(78.1メガヘルツ)の開局時からの創設メンバー。
  • 住所:塩竈市尾島町27-22
  • 電話:022-363-3781
  • サイト:http://www.bay-wave.co.jp