仙台屋食堂

塩竈市貞山通にある知る人ぞ知るマニアックな食堂「仙台屋食堂」。震災から一ヶ月後に営業を再開。現在、元気にそして相変わらずのマイペースぶりでキッチンに立っている。あの“やまちゃん”の味がまた味わえる、それだけでも元気になっちゃうきがしませんか?

津波なんて絶対来ないと思ってた。あの夜の寒さ、暗さ、そして臭いは忘れられない。

仙台屋食堂塩竈市貞山通、東埠頭に一軒の食堂がある。昭和58年にホテルのシェフとして東京・大阪などのホテルでの経験を生かし、現在地に自分の店をオープンさせた。地震があった日、店には2組のお客さんがいたそうだ。「地震のときは、すごかったよ。店の前に停まっていた車が40センチぐらい前後に揺れていましたからね。お客さんも大混乱で、家族連れのお客さんは店にジャンパーとかみんな置いてちゃったし、会計しないでみんな帰っちゃった(笑)。一ヵ月後ぐらいに連絡はついたのでよかったけどね」

裏の運輸会社の人から電話が来て「津波が来るから逃げろ」って…」

仙台屋食堂津波が押し寄せるときには、よく海底が見えると聞いていたそうだが、山内さんが海を見た時には何の変化もなかったそうだ。「津波警報が出たって、これまで逃げる人なんて誰もいなかったもんね。それで、店の中の片づけをしていたんです。そうしたら、裏の運輸会社の人から電話が来て「津波が来るから逃げろ」って…」

それで山内さんは、近くにある第二管区海上保安部の建物へ避難。そこで初めて津波の大きさを知ることとなるが来てる。「津波警報が鳴るたびに2階と5階を行ったりきたり、最終的には屋上まであがりました。雪は降ってくるし、そのうち日が落ちて真っ暗になり寒くなってきた。そうしたら今度は、仙台新港のほうで石油タンクが燃えその煙も流れ込んできた。いやな臭い鼻につくようになり、最悪な雰囲気でしたね」それから山内さんはここで丸3日間を過ごすことになる。

いったん様子を見に店へ戻ったのが地震の翌日。「もう、何から手をつけていいのか、わからない状態でした。水は約1m20cmくらい。イスやテーブルはもちろん電化製品も全部水に浸かっちゃいました。もう商売はできないだろうなと思いましたよ

油交じりの調理用具を洗うのにひと苦労。常連さんからの注文でやる気に火がついた。

仙台屋食堂油交じりの汚れと格闘しながら、なんとか店を再開できるようになったのは約1ヵ月後。「どうせ、開けてもお客さんは来ないだろうなと思っていたんです。ところが、仮設工事をしていたうちの常連さんから連絡があり、“30人くらいの工事関係者がいるんだが、シューマイを食べさせてやりたい。いつからできる?”と言われたんです。その予約を受けたのが実質的な再開でしたね。まずは、シューマイで再開しました。シューマイだと材料がひき肉とエビ、たまねぎがあればできますからね。でも、洗い物が大変だった。シューマイはでっかい60センチの鍋で蒸すからさ、少しずつ水を入れて大事に大事に使いました。

ほかにも料理には欠かせない皿なども3分の2ほど使い物にならない状態になった。定食や焼きそばもある程度深みのある皿でないとダメなのだそうだ。「もう4枚くらいしかなくて苦労してるんです。メーカーに連絡してももう無いそうですし…」

もともとマイペースでめげない性格。これからも、お客さんのために店を開け続けますよ。

震災から9ヵ月。ぼちぼちと無事を聞きつけたお客さんも戻ってきた。相変わらず山内さん一人で店を切り盛りしているが、最後にこれからの意気込みを聞いてみた。「ああ、俺は頑張らない方針なんだよね(笑)あえて言うなら、もっとたくさんの人にこういうお店があるってことを知ってもらいたいね。県外のお客さんも増やしたいし。けっこう、マニアックなお店だからね(笑)

text:落合次郎 photo:大江玲司 取材日:2011年11月29日

プロフィール

仙台屋食堂
  • 山内博行(通称 やまちゃん)
  • PORT SHIOGAMA EAST WHARF 仙台屋食堂
  • 岩手県大東町出身 旨い飯と鱶鰭(フカヒレ)を食堂プライスで提供する為、2008年8月仙台屋食堂埠頭売店開店。自家栽培の天日干し米を使用したディナータイム一組限定の至福のコース絶賛予約受付中。
  • 住所:塩竈市貞山通1丁目6-67
  • 電話:022-363-2125
  • 営業時間:昼11:30~15:00 夜18:00~(要予約)
  • 定休:日曜、祝日
  • メニュー:海鮮藻塩焼きそば 1,200円/牛肉と大根のカレー(土曜日限定)850円/焼売1個 100円 他