2018年夏、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」が4回目を迎えた。今回のプログラムで独創的なデザインの陶芸作品を展示する作家・氏家昂大さんに話を聞いた。
アート作品としての焼き物
今回の「Voyage」で氏家さんが展示する作品は、おもに学生時代に制作した壺のほか、近年力を入れているという茶道具や植木鉢など全部で13点。形のゆがみや表面のヒビを生かした野心的でダイナミックなデザインの作品群は、1点1点が見る者の目を強く引きつける。氏家さんは自身の作品づくりについてこう話す。
「日常づかいの器というよりは、特別な時に箱から出して鑑賞しながら使うような、アート作品としての側面を大事にしています」
氏家さんが茶道具の制作に力を入れているのも、やはりそこに理由がある。
「茶室の中は非日常の舞台である、という考え方があります。そこで主人が選ぶ茶道具は、いわば舞台役者。どんな道具を選んで配役するかがひとつの楽しみなのです。僕は、茶室という舞台で際立った個性を放つ茶道具を作りたいと思っています」
「貫入」を生かすオリジナルの技法
生き物を思わせる動的な印象の作品群を特徴づける要素のひとつが、貫入(※)を赤や青に着色して浮き上がらせた不規則な模様だ。
氏家さんの作品づくりにおいて最も独創的なポイントともいえるこの表現方法は、実は偶然が生んだものだった。大学の卒業制作として作っていた青磁の壺にひび割れができてしまったため、氏家さんは割れ目を漆で接着することを思いつき、さらにその継ぎ目をカムフラージュするために周囲の貫入にも漆を染み込ませた。すると、「血管のような生命感」が出たのだという。このとき生まれたのが「漆貫入彩青白磁壺」。今回の「Voyage」でも展示されている作品だ。
それ以降、氏家さんは貫入を色漆で染めたデザインを積極的に取り入れ、さまざまな表情の作品を生みだしてきた。
塩竈を題材に作品を制作
今回の「Voyage」の展示に向け、氏家さんは新作を1点完成させた。作品のテーマは、塩竈。それまで特定の地域を題材として制作することがなかったという氏家さんは、創作への着想を得るため塩竈について調べた。
「神社や祭り、海、船などに代表されるような塩竈の風土に感じたのは、派手さや力強さでした。地元の人が大事にしている塩竈桜にも、つつましさや儚さより華やかさを感じましたね」
氏家さんが塩竈という土地から受けたそのような印象は、氏家さん本来の躍動的な作風と調和し、豪快で力強いデザインの新作「漆貫入彩御深井鉢(銘:塩海)」が生まれた。
「この造形は僕にとって初めての試みでした。これを作ったことで、僕自身、デザインの幅が大きく広がったと思います」と話す氏家さん。「いままでは伝統的な茶碗などから着想を得ていましたが、今後は地域やそこに根付く風土を取り入れた作品も作っていきたいです」と、今後の創作活動に意欲を見せる。
※貫入…陶磁器を焼き上げたあとに表面の釉薬(ゆうやく、うわぐすり)に入るひび。
text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2018年7月21日
プロフィール
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- 氏家昂大(陶芸家)
- 1990年宮城県仙台市生まれ、岩沼市在住。2015年東北芸術工科大学大学院芸術文化工芸領域修了。同年より宮城県柴田町の工房で作家活動を続けている。
- 【個展】
- 2014年「氏家昂大展 凍陶 TOUTOU」LIXILギャラリーGINZA ガレリアセラミカ(東京)、2015年「氏家昂大展」ギャラリー数寄(愛知)、2017年「氏家昂大展 -wah-」SILVER SHELL(東京)他
- 【グループ展】
- 2013年「アジア現代陶芸 新世代の交感展」金沢21世紀美術館(石川)・愛知県陶磁美術館(愛知)、2016年「現代の茶碗展」三越伊勢丹新宿店(東京)、「縁-enisi-」西武渋谷店(東京)、2017年「新緑乃刻みたてて愉しむ現代茶の湯展」三越伊勢丹新宿店(東京)他