釣舟富紀子

2023年夏、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」で、塩竈市内在住の画家・釣舟富紀子さんの個展「ROADSTEAD」が開催されている。塩竈市内の風景をモチーフとした絵画で構成されるこの展示について、釣舟さんに話を聞いた。

2種類の描き方が生み出す世界

釣舟富紀子「ROADSTEAD」の展示作品は、日本画3点とアクリル作品12点。

かつて塩竈市内で飲用水に使われていたとされる7つの水源「七清水」を、ニホンカモシカを模した架空の生き物が探し歩く「調べ学習」をイメージした構成になっている。

塩竈市内の風景を描いているという点は共通しているものの、アクリル画と日本画の画面の雰囲気は大きく異なる。日本画が実際の風景を写実的に描いてるのに対し、アクリル画は現在の風景や過去の営み、取り壊された建物、別の場所にある構造物、架空の生き物などが同じ画面に配されたファンタジー性の強い世界となっている。

鑑賞者は、展示の大半を占めるアクリル画の世界に半ば入り込みそうになりながら、3枚の日本画によって、現実の場面に引き戻されるような、あるいは架空のキャラクターの視界を否応なく見せられるような不思議な経験をすることとなる。

町の風景を記録する

釣舟富紀子釣舟さんは普段から、塩竈市内や周辺地域に残る古い建物や、すでになくなった風景などを描くことが多い。

古いものが次第になくなっていくのは自然なこと。劣化するし、災害で倒壊することもある。だから私はそれらを、その場の雰囲気ごと絵の中に残しておきたいと思うのです」と釣舟さん。

今回の展示でも、2022年から2023年にかけて閉店したラーメン店や洋菓子店、閉店・解体されたスーパーや青果店などが作中に描かれる。

私はリアルタイムで変わっていく風景をいつも観察していて、自分用のメモとして描いているようなところがあるのだと思います

それぞれの故郷を感じてほしい

釣舟富紀子「Voyage」の展示作品には、前述のような閉店した店舗や、みなと祭、海岸通りのヤミ市、藤倉の採石場など、「調べ学習」のテーマである「七清水」とは直接関係のない場所や物事も多く描かれている。

水源を探すキャラクターのすぐ近くには、別の誰かにとっての日常の風景がある。それが、その誰かにとっては塩竈らしさだったり故郷らしさだったりすると思うのです」と釣舟さん。

「見知った風景を絵の中に見つけて懐かしんだり、ご自身にとっての故郷の風景を思い起こしたり。この展示が、見てくれた人にとってそんな機会になったらうれしいですね」

Text:加藤貴伸 Photo:大江玲司  取材日:2023年7月19日

プロフィール

釣舟富紀子
  • 釣舟富紀子(つりふね ふきこ/Fukiko Tsurifune)
  • 画家。1993年宮城県塩竈市出身・在住。京都精華大学マンガ学部マンガ学科卒業。幼少から親しんだ塩竈市内外の風景・建造物などをモチーフに、ファンタジー描写を加えた架空の地方都市のアクリル画群を制作している。また、日本画材では実在の古い建造物を中心にした絵を描く。2020年「第35回東北建築フォーラム 第14回東北の建築を描く展」大賞、2022年「第59回宮城県芸術祭絵画展(公募の部)」宮城県芸術協会賞受賞。