2024年夏、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」で、多賀城市出身のペインター・渋谷七奈さんの個展「光源の二輪」が開催されている。絵画と言葉で構成されたこの展示について、渋谷さんに話を聞いた。
言葉と絵による「心象スケッチ」
個展「光源の二輪」の会場には、渋谷さん自身が描いた8点の絵画のほか、宮沢賢治の著作の一節、逢坂みずきさん(女川町出身)や近江瞬さん(石巻市出身)の短歌といった文学作品が配されている。
この展示について渋谷さんは「私や歌人、詩人たちの心象スケッチでもあるし、あるいは見てくれた人の心象スケッチになる可能性もあると思っています」と話す。
会場入口に近いところに記された「これらは二十二箇月の過去とかんずる方角から〈中略〉かげとひかりのひとくさりずつそのとほりの心象スケッチです」(宮沢賢治「春と修羅」より)は個展「光源の二輪」への導入の役割を果たし、逢坂さんや近江さんがそれぞれの視点で日常を切り取った短歌は渋谷さんの絵画とともに鑑賞者の記憶にそれとなく語りかける。
死者を弔う行為の普遍性に目を向ける
渋谷さんの作家活動の軸のひとつが、「死者への弔い」についての考察だ。
「ネアンデルタール人が死者に花をそえていたという説があります。数万年前の人類もそうしていたのでは、と現代の私たちが想像してしまうこと自体、『弔う』という行為が人にとって地続きのものであるということを示していると思うし、だからこそ人がいる限りはずっと続いていく普遍的な行為なのでは、と思うのです」
2021年に母親を亡くしたのを機に渋谷さんが作り始めたのが、ネアンデルタール人の弔花をイメージして描く「おはよう」「おやすみ」シリーズだ。今回の展示にある「おはようとおやすみ」はその中の1点で、渋谷さんが多賀城や塩竈で見たことのある花の色を画面に落とし込んだものだ。
自身にとって絵画制作のプロセスには「忘れてしまいやすい記憶をとどめておく」「亡母への日常的な手向け」という2つの意味合いがあると話す渋谷さん。「おはよう」「おやすみ」シリーズを「またどこかで巡り会えたら、無償の愛を届けられるかもしれない人への願い」と位置づける。
作品から光を感じてもらえたら
展示タイトルと同名の絵画作品「光源の二輪」は、今回の個展を象徴する大作だ。
渋谷さんによると同作は「展示に至った物語を記憶の断片として描いたもの」。画面にはどこかに向かって進んでいこうとする自転車や、誰かの記憶を呼び起こすかもしれない何かを落としながら羽ばたく鳥が描かれ、広くとられた余白がすべてを明るく包んでいるようにも見える。
個展「光源の二輪」の会場には、東・南・西の三方に窓があり、時間とともに角度を変えながら光が差し込む。「作品を見ているときにふと光が差してくるような構成にしたかった」と話す渋谷さん。
「絵画と言葉と光が交差する空間の中で、大事な人の影や痕跡に触れたり、自分自身の今や未来に光を感じたりできるような展示になることを願っています」
Text:加藤貴伸 Photo:大江玲司 取材日:2024年8月4日
プロフィール
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- 渋谷 七奈(しぶや なな/Nana Shibuya)
- 画家。1994年宮城県多賀城市出身。2019年東北芸術⼯科⼤学⼤学院 芸術⽂化専攻 芸術総合領域修了。同学では日本画を学び、現在は⼭形に拠点を置いて活動。⽇々の断⽚をとどめるようにドローイングを重ね、⼤切な記憶と情景を描き出す。近年では死者への弔いと記憶のあり方について思考し、制作を行う。
- https://shibuyanana.com