小池アミイゴ

2019年3月上旬、塩竈市杉村惇美術館で小池アミイゴさんの展覧会「東日本」が開催され、東北や九州の海辺の風景やさまざまな花の絵、絵本の原画、線画スケッチによる映像作品などが展示された。この展覧会は、小池さんと塩竈との特別な縁から生まれたものだった。

美しいものを見つけていくことが仕事

小池アミイゴ2011年の6月、小池さんは福島県いわき市豊間でボランティア活動に参加した。がれきが山積みになる海辺の町で小池さんの心に残ったのは、それでも綺麗な海や、道端に美しく咲く花の姿だった。

被災地に暮らす人たちが海や花を見て美しいと思う、そのことに対する想像力は持っていたいな、と思いました。俺にできるのは、美しいものを見つけていくことだけなんです

小池さんはその後、気仙沼や宮古など、東北地方の沿岸各地を訪れ、風景の写真を撮り、絵を描いた。そうして震災の1年後には東京で展覧会を開催。その会場で小池さんは、絵を前に泣く人の姿を見た。

震災のあと、人々の優しさが浮かび上がった。だけど同時に俺は、人々が感情を表に出せなくなっている気がしていたんです。でもそこに1枚の絵があるだけで、それができる。だから、自分がやっていることは必要なことなんだと思えました

そして小池さんは、その展覧会の後も東北を歩き、作品づくりを続けた。

塩竈を特別な場所にした、ひとつの出会い

小池アミイゴ2013年1月、小池さんは初めて訪れた塩竈で、ある養殖業の家の娘さんに出会った。その女性は小池さんに気さくに話しかけ、カキなどの海産物をふるまい、身の上話を聞かせた。

その人との話が面白くてね。被災地で元気をもらう、なんてことが本当にあるんだな、と思いました」と小池さん。2週間後にその女性から届いた手紙には、震災の直後に空を飛ぶカモメの姿を見て生きている実感を得たことや、養殖業を継いでくれた夫に対する愛情、自身の体調の不安など、素直な心情が綴られていた。

「きれいに整理されていて、重々しくない。読む側の想像の余地も与えてくれる。また会ってみたいと思わせる力がある。そんな手紙でした。自分もこの手紙のような作品を作りたいと思いました」そして実際、女性との出会いは、小池さんの作品づくりに変化をもたらした。

風景を描いた自身の作品について、小池さんは言う。
訪れた先で見た風景は、その土地の人との出会いによって描きたい風景に変わるんです。そこで出会った人の肩越しに、あるいはその人の視線の先に、俺は風景を見ているんだと思います

そして小池さんはこう続ける。
彼女との出会いで、その感覚が強くなり、行く先々でそういう風景に出会うようになりました

これからも塩竈を描き続けたい

小池アミイゴ出会いから数年、女性と小池さんの交流は続き、塩竈の海産品の包装イラストを小池さんが担当するなど、仕事としての連携も具体化し始めた。ところが2018年8月、女性は突然病に倒れ、帰らぬ人となった。

女性の葬儀の翌朝、窓から見た光の美しさに導かれ、小池さんは塩竈の港に出た。海辺を走り、朝の港の風景を見続けた。「とても美しかった。彼女は俺にこの風景を見せたかったんだ、と思いました」そして小池さんは、塩竈の港を描いた1枚の絵を完成させた

塩竈の港の絵を、小池さんは2019年3月の展覧会「東日本」で展示した。この展覧会は、生前「アミイゴさんの展覧会、私が塩竈で開いてあげる」と話していた女性に対する答えであり鎮魂でもあった。

そしてこの展覧会の後も塩竈を描き続けたいと小池さんは言う。

だって、いいものをたくさん見せてもらったのに、まだ何も描けてないですから。塩竈の人が俺の絵を見て、土地の魅力をあらためて感じるきっかけになったらいいと思います

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2019年3月2日

プロフィール

小池アミイゴ
  • 小池アミイゴ(画家)
  • イラストレーター、画家
  • 1962年群馬県生まれ。
  • 1988年よりフリーのイラストレーターとしての活動をスタート。
  • 1990年代、鍵盤奏者、CLUB DJとして活躍。
  • 2000年代、日本各地をめぐり、その土地で暮らす人と共に、ライブイベントやワークショップを企画開催。
  • 2011年4月、吉祥寺にじ画廊で花の絵の展覧会「その辺に咲いていた花」開催。
  • 2011年3月11日の東日本大震災発生後、東北地方の各地を巡り、「東日本」というテーマのもと作品を制作。
  • 2012年以降、個展「東日本」を日本各地で開催。
  • 2016年9月、作画を担当した絵本『とうだい』(福音館書店)を発表。
  • 2017年4月〜7月、熊本県のつなぎ美術館でこれまでの作品を集めた展覧会を開催。
  • 2017年〜2018年、東京都と福島県の事業「福島藝術化計画」で子どもとのワークショップセッションを展開。
  • 2018年、東京都のオリンピック事業「ライブサイト2018」のアートワークを担当。

小山薫堂氏とのコラボレーション「旅する日本語2018」を羽田空港で展開中。
池袋コミュニティーカレッジにて絵のワークショップセッション開講中。
東京イラストレーターズソサエティ(TIS)会員、2019年より理事長就任。