太田與八郎商店

昭和4年に、釘を使わずに建てられた店舗付居宅と大正14年、当時世界を席巻したモダニズム建築の洗礼を受ける工場は塩竈市文化景観賞を受賞している。現在も昔と変わらぬ同じ味を作り出している味噌醤油醸造元、太田與八郎商店の太田真さんに建物を案内していただきながらお話を聞いた。

鹽竈神社の賑わいと共に伝統の味を守り続ける

太田與八郎商店太田與八郎商店が創業したのは江戸時代の末期の1845年(弘化2年)。それは今の味噌醤油屋としての創業ということなのだが、それ以前、鹽竈神社の表坂下西町で、旅籠屋をやっていたそうだ。「大和町の鶴巣太田という土地から出てきて旅籠を開き、その頃から“太田與八郎”という名前を代々名乗っています」與八郎が4代目の時代、小作を使用して耕していた田んぼも所有しており、旅籠屋のまかないとして、収穫した米などを使って、味噌や醤油を作り始めたのが現在の商いの始まりとされる。

その時に、商売人の勘が働いたのでしょうか、味噌醤油を扱う店を創業。手応えをつかんだのだろうか。「おそらく、農民が今よりずっと多かった時代ですから、商売にするというよりは自給用としていたのだと思います。そのうち、旅籠に泊まるお客様に分けていったりしたのが、だんだん広まっていったのではないでしょうか」

当時の最先端が偲ばれる建物。商いのスタイルが店の造りに活かされている

太田與八郎商店現在の建物は店舗付居宅と工場からなっている。明治22〜23年頃に現在地に移転。当時は埋め立てが進んで商業地としてどんどん整備されていった時代だった。「現在の店舗と住宅は昭和4年に立て替えたもので、工場はそれよりも少し前、大正14年に建て替えられました。通常、同じくらいの歴史を持つ醸造工場の場合、土のたたきが残っていたりするのですが、うちの工場はレンガを敷いているんです。今見ればだいぶ古いのですが、当時は最新式だったんでしょうね」

太田與八郎商店の店構えは“店座敷”といって、お客さんを座敷でお迎えして接客、そこで商品のやりとりをする。また、そこまでいかない普通のお客さんはたたき部分でお迎えするというふうに、使い分けられるような作りだ。(現在、座敷部分は接客には使っていない)「うまくお客さんを迎えるための構えと、普通の家としての構えと、両方の顔を持っている珍しい造りなんです」

かつて、こういう造りのお店が塩竈にはたくさんあった。商いの大切な部分を残しつつ昭和4年当時の新しい建築を融合させて作られたという点も、塩竈市文化景観賞に選ばれた要因なのではないかと思われる。

「昔はこの座敷に番頭さんがちょこんとすわっていたりしてね(笑)あと、この建物の前に川が流れていたので、船で塩竈に着いた人たちが、乗り換えた小舟を、店の前につけて、味噌や醤油を買い求める。それをまた舟に乗せて、また漁に出ていくんだそうです。けっこう大量に、樽で買っていたようですよ。そういう風に昔の商売の姿を想像するのも楽しいですね」

震災でも崩れなかった柱と梁。なおさら大切に守っていきたいと思う。

太田與八郎商店去年の震災では、店の戸のガラスのちょっと上まで水が入った。たたきの上に砂利を敷いていたため泥の掻き出しが大変だったそうだ。「1トンくらいにはなったんじゃないでしょうか。とてもじゃないので今ではコンクリートに変えましたけれどね(笑)あと、壁が落ちたり瓦が落ちたりということはありましたが、柱や梁はなんともありませ

築80年以上も経つ建物ということで、維持するのも一苦労らしい。「維持というか、もうあちこち隙間だらけですから(笑)いろんなところをふさいでいますよ(笑)

復旧工事を手がけてくれた親方が言うには、醸造蔵でここまで立派な杉板張りの屋根は貴重とのこと。「そうとうガタがきているので、もうだめかなぁと思ったんですが、あの揺れでも崩れないのはすごいと思いました。御先祖さまがせっかく建ててくれたものですから、守っていかないといけない建物なのだと実感しています。

古い歴史に美味しい食。これぞ塩竈歩きの魅力。

太田與八郎商店塩竈はいたるところに歴史や文化を伝えるものが、いまだに普段遣いで使用されているものが多い。鹽竈神社を含めて、大事にしなきゃいけないという気持ちが綿々と受け継がれているような気がする。

「この通りだけでも古い建物が多いですしね。そういう文化的なところを見て感じて楽しんでいただいて、そのあとはおいしい食べ物もたくさん食べていただきたいですね。」海を抱いた塩竈はそのとおり美味しいものの宝庫でもある。その食を支えてきたのも太田與八郎商店の味噌であり醤油でもある。

今の時期ですと、一番のおすすめはお味噌の「蔵一番」と「だし醤油」。あとは、スタンダードな醤油と、いろなし醤油ですね。いろなし醤油は、普通のお醤油よりも、色だけが薄いんです。塩分濃度は普通のものと同じです。薄口しょうゆは塩分濃度が高めなので、塩分がたくさん入っているんです。その点、うちのいろなし醤油は、全国的にも珍しいお醤油なんですよ。煮物ですとか炊き込みごはんなど、色を抑えたいときに使っていただきたいですね。

太田與八郎商店

  • 太田與八郎商店
    太田與八郎商店外観
  • 太田與八郎商店
    太田與八郎商店店内
  • 太田與八郎商店
    レンガだたみの工場
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    綿々と受け継がれる歴史
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    旅籠屋当時は旅籠屋だった
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    その後味噌醤油を扱う店を創業
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    イゲタヨ 松印醤油 1リットル
  • 太田與八郎商店
    イゲタヨ さしみ醤油 1リットル
  • 太田與八郎商店
    本場仙台味噌 粒味噌1kg

SHOP INFO.

  • 店名:太田與八郎商店
  • 住所:塩竈市宮町2−42
  • 電話:022-362-0035 ‎
  • 営業時間:9:00-17:00
  • 定休日:日曜祭日

Text:落合次郎 Photo:大江玲司 取材日:2012年1月10日