阿部勘酒造

創業は1716年。江戸時代は享保元年になる。以来300年この塩竈で酒造りを続けてきた阿部勘酒造店。現在の社長で14代目になる歴史あるこの酒蔵では、販売本数の半分が塩竈を中心とした地元に流通している。地元の食と密接に関わる、まさに塩竈の地酒なのだ。

少量であるからこそ手間ひまをかけ、上質な酒造りができる。

阿部勘酒造創業300年という伝統をもつ阿部勘酒造。実は2度の火災で記録などを消失しているので、確かな歴史の記録は残っていないそうだ。「伊達藩より酒造株(お酒を作る免許)をいただいて、お酒を造って鹽竈神社に奉納することから始まったと聞いています。創業も1716年ということになっていますが、若干ちょっと前後するようです。時期的にはちょうど佐浦さんと同時期ですね」

現在でも鹽竈神社にある昔の稲を作っている御神田で収穫したお米を一部使い、出来たお酒を春先に奉納しているそうだ。阿部勘酒造の蔵は、造っている量が少なく、販売数は約5万本程度。また、販売先の8割が宮城県内。さらにそのうちの5割は塩竈を中心とした多賀城、利府、松島などの近隣に出している。「それ以上の数量は作れないというのが現状なのですが、少量であれば、手間暇もかけられる。少なくても上質なお酒をつくっていこうというのが社訓にもなっているんです」

宮城県は、全国的に見ても日本酒がものすごくおいしい県と言われている。毎年行われる日本酒鑑評会では宮城のお酒は賞をとった率が2年連続全国2位。しかも、県内の20社くらい参加して、16~17社くらいとっている。平均8-9割とはそれだけレベルが高いという証明だろう。

商品のコンセプトは「魚と食べておいしいお酒」

阿部勘酒造塩竈は古くからの港町でマグロが有名、さらにお寿司もうまい。阿部勘酒造店のお酒も、「お魚に合うお酒」をイメージして造っているそうだ。「例えば、ヒラメの刺身などの白身魚はちょっと甘みがありますよね。その甘みを引き立てるには、ちょっと渋めのお酒を造るといいんです。スイカに塩をかけて甘さが引き立てる、それと同じ原理ですね。また、少々生臭さがあるカツオも、その生臭さを逆に包みかくしてしまうお酒もあります。味の濃い、薄いではなく、ちょっとしたバランスの差というのも日本酒にとっては大切な要素なのです」。

なるほど、では塩竈ならではのマグロにはどのようなお酒が合うのか聞いてみた。「マグロなどの赤身系ですと、特別純米酒がいいですね。白身だと、「亀の尾」を使用したものがおすすめです。純米吟醸は、かつおとか出汁のきいたお料理に合います。不思議なのが、赤身のお魚を食べながら、さっきおすすめした特別純米を飲むと何も感じないのが、ほかの、別のものを飲んだりすると、少し生臭く感じたりするんですよ。食べ合わせっておもしろいんですよね」。

塩竈には寿司屋、和食屋がたくさんあり、美味しいところが多い。魚を食べるときがあれば、ぜひ試してみてほしいとのこと。「塩竈の飲食店さんに顔を出した時などは、“このお酒にこの料理は意外に合うよ”って教えてもらうこともあります。洋食でも意外に合うケースもあったり、まだまだ新たな発見があったりするんですよね」

阿部専務に教わる日本酒の選び方のコツ。

阿部勘酒造「例えば当店の「於茂多加」のラベルを見ると、“純米吟醸、亀の尾・山田錦”などと書いてあります。これは、使用している酒米の銘柄。使っているお米が違うと、味わいもすごく変わってくるんです。「夏子の酒」っていう漫画がありましたが、そのなかで、「龍錦」っていう幻のお米が描かれていましたが、そのモデルになったのが、この「亀の尾」という酒米なんですよ。

当店で使用しているこの「亀の尾」は、石巻産のお米で、背が高くて、どうしても風を受けてしまう。台風なんか来ると倒れてしまうんですね。だから、なかなか栽培が難しんです。また、「山田錦」っていうお米は、お酒づくりに一番適しているといわれているお米です。粒が大きくて、深い味わいが出ます。また、米と並んで、もうひとつ大事なのが、アルコールをつくる菌である酵母。米と酵母で日本酒の味の方向性がだいたい決まってしまうんですね。

「吟醸酒」の場合は、香りが華やかなんですね。なんて例えたらいいか…とりあえずいい香りがします!(笑) 普段飲まない方などは、ワインよりも華やかで飲みやすい酒だと思います。逆に、純米や特別純米などは、比較的香りがおだやかで、お米の味がしっかりしています。ただ、お酒は本当に好みで別れてくるんです。何が違う、どこがいいといっても、結局は、飲む人の口にあったものが一番なんでしょうね」。

阿部勘酒造

  • 阿部勘酒造
    阿部勘酒造外観
  • 阿部勘酒造
    阿部勘酒造店内
  • 阿部勘酒造
    こだわりの酒米
  • 阿部勘酒造
    少量生産だから手間暇もかけられる
  • 阿部勘酒造
    食材を豊かにする副産物
  • 阿部勘酒造
    酒米のちがいで楽しむ阿部勘の酒
  • 阿部勘酒造
    塩竈の魚を肴に…楽しんでください
  • 阿部勘酒造
    創業は1716年

SHOP INFO.

  • 店名:阿部勘酒造店
  • 住所:塩竈市西町3-9
  • 電話:022-362-0251
  • 営業時間:8:30~17:00
  • 定休日:日曜、祝日、 第2・第4土曜日
  • ※蔵の見学はお断りしています

Text:落合次郎 Photo:大江玲司 取材日:2012年1月12日