オレンジシャーベットやコーヒーロールは全国に名の知れた商品。シャンドマルス・ヤマギシは昭和34年創業の老舗の洋菓子店。創業当時の味を守りながらも、調理学校の講師もつとめる二代目パティシェの山岸久男さんが新しい味づくりに熱心だ。
店の周りは沼があって、人通りもさみしいところでした。
東北本線塩釜駅前にあるシャンドマルス・ヤマギシの創業は1959年(昭和34年)。その歴史は50年以上。創業当時、お店の周辺は駅こそあれ、近くには沼があり人通りもまばらだったそうだ。「もともと私達は、蔵王町出身で、結婚を機にここ塩竈に店を出しました。その当時は、この辺は人通りもなくてね、知り合いなんかも誰もいませんでした。けど、うちの息子と娘がまだ小さかったから、近所の人たちが子守をしてくれたり、近くの子どもたちも、学校から帰ってきて、子守しに来てくれました。その時に、お礼にパンとかアイスをあげてね。みんなそれが楽しみで子守しに来てくれたりしたものよ(笑)。そうやって、ここの土地のみなさんの温かさに囲まれていたから、ここまでやってこれたんでしょうね」
最初は和菓子とパンが主な商品だったが、息子さんが日本菓子専門学校を修了し、ヨーロッパでの研修や東京都世田谷区の“オーボンヴュータン”というフランス菓子の第一人者がいるところで修行して帰ってきてからは、洋菓子の製造がスタートした。
「息子が帰ってきてから、パンを辞め、洋菓子を息子が、カステラとかコーヒーロールはお父さんが、という感じで続けてきました。息子はすぐにフランス菓子をやり始めたのですが、その当時にしてはまだ早かったんでしょう、お客さんの口になかなか合わなかったみたいですね。」
オレンジシャーベットが全国に広まった理由
それからほどなく、現在の定番となるオレンジシャーベットが誕生することになる。「息子が帰ってきた年は、すごい日照りの年でした。それで、息子が、“こんなに暑いんじゃ、なにか考えないとね”と、冷菓を考え始めたんです。少しずつ試作して、配合とか、皮をどうするのかとか、何度も繰り返しながらね。水は一滴も入れずに、全部果汁で作っているのがこだわりなんです。完成してからほどなく、著名な料理研究家の石原明子先生が“風邪のときに食べるといい”とおっしゃってくれたのが、日経新聞に掲載されたんです。そして、次の年に雑誌のサライにも取り上げられ、それがきっかけで全国に広まるようになったんです」
シャンドマルス・ヤマギシのラインナップは、他にもコーヒーロールや、ふるさとの名前をつけた“蔵王育ちのなめらかプリン”。「根強い人気なのがショートケーキとモンブラン、チョコレートケーキ。うちのお店は、特に材料にはこだわっています。例えば、バレンタイン用にチェリーボンボンを作る時には、山形のさくらんぼを旬の時期にキリッシュ(さくらんぼのブランデー)に漬け込んでおります。モンブランの場合はフランスの栗を使用、マロンの場合は、高くつくのですが、日本の和栗を裏ごしして作っています。でも価格は、地元に合わせてお安くしているんですよ。“ばあちゃん、これじゃ割りに合わないよ”って息子に言われますけど、お客さんに喜んでもらうことを最優先にしたいですからね。
お客さまを第一に考えることが、長続きの秘訣です。
東日本大震災の時は、2週間お店を休んだ。避難所ににお菓子やなどを差し入れした。コーヒーロールなどは店の前で配り、卵も500個くらいあったので近所に配って歩いた。その後、電気が通ってからも、周りはまだまだ大変な状況だったので「うちだけが商売してもいいのだろうか」と葛藤があったそうだが、みなさんから温かい励ましをもらって“明日から商売がんばるぞ”という気になったと話す。
オレンジシャーベットが日経新聞に載ったときからずっと買い続けてくれている愛知県のお客さんがいるそうで、去年の夏、わざわざ来店してくれたそうだ。「ずっと送り続けて、もう10年以上の付き合いなのですが、この度の震災で、心配してわざわざ来てくれたんです。本当に感激しましたね」。今でも、商品の発送は、一件一件電話して間違いなく送っている。こういう細やかな配慮がお客さんの心を掴んでいる理由なのだろう。
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- 塩釜駅から徒歩1分
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- 贈っても頂いても嬉しいスイーツ
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- アットホームな店内
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- 蔵王育ちのなめらかプリン
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- カステラ、焼き菓子も人気です
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- 塩釜ロールケーキ
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- コーヒーロール
SHOP INFO.
- 店名:シャンドマルス・ヤマギシ
- 住所:塩竈市東玉川町8-12
- 電話&FAX:022-362-5546
- 営業時間:9:30~19:00
- 定休日:月曜
- 駐車場:有り
Text:落合次郎 Photo:大江玲司 取材日:2012年1月16日