渡邉敬久

2016年6月、塩竈・本町通りに黄色の外壁が印象的なジェラートショップが開店した。店主は、同じ通り沿いにある渡辺果実店の二代目である渡邉敬久さん。ジェラートショップ開店1周年を間近に控えた2017年6月、渡邉さんに話を聞いた。

果物は本来、ジェラートと好相性

渡邉敬久果物を使ってジェラートを作ろうとすると、とても手間がかかります。私はずっと果物と向き合ってきたから、処理の仕方を知っている。だから美味しいジェラートにできるんです」と話すのは、「ジェラテリア フルーツラボラトリー」の店主・渡邉敬久さん。その言葉には、果物を扱うプロフェッショナルとしての自負がにじむ。

ある果物が最も多く出回る時期が、最も美味しい時期とは限りません。私たちは、その果物が本当に美味しい時期を知っているから、タイミングを逃さずにジェラートに使うことができます。それから、メロン、ぶどう、桃、と一言で言っても、品種によって味や香りの特徴がある。ジェラートでその違いを感じてほしいですね」

起業を志した果物店の二代目

渡邉敬久1976年に本町の果実店に生まれた渡邉さんは、大学卒業後、実家の店の経営に携わるようになり、仕入れ、販売などを担った。

30代の半ばを過ぎ、果物を使った商品を開発して販売したいという思いを強く持つようになり、商工会議所で開催された「創業スクール」を受講。その一環として、スクールの講師や商工会議所のスタッフからアドバイスを得ながら、「果物屋さんのノウハウを活かしたジェラテリア事業」をテーマにビジネスプランを作成した。

果物専門店の強みを生かしたスイーツの提供というだけでなく、廃棄の削減、生産者や従業員の存在までを意識した綿密なプランは、全国の「創業スクール」の代表251プランがエントリーした第2回全国創業スクール選手権(中小企業庁主催)で好評価を得て8名のファイナリストに選ばれた。

開店前は不安で眠れなかった

渡邉敬久渡邉さんのプランは、事業化に向けて一気に加速した。行政のほか、商店街の活性化を目指す有志団体「本町通りまちづくり研究会」も渡邉さんを後押しした。

「事業化を考え始めた頃は、『失敗したって、やり直せばいい。やらずに後悔するよりずっといい』と思って動き始めました。でもオープンに向けて準備を進めるうちに、協力してくれているたくさんの人の存在を強く感じるようになり、先が見えないことに対する漠然とした不安を感じるようになったんです」と話す渡邉さん。「オープン前の1ヶ月はほとんど眠れなかった」そうで、ほとんど一睡もできずに市場に仕入れにいくこともあったという。

それでも開店にこぎつけ、ジェラートを待ちわびたたくさんの人が初日から店に殺到すると、目の回るような日が続き、渡邉さんの不安は一気に吹き飛んだ。

町がもっとにぎやかになればいい

渡邉敬久ジェラートショップの開店から約1年が過ぎた。渡邉さんが季節ごとの素材を使って商品化してきたジェラートは全部で80種類を超える。

「レパートリーを増やすために研究するというよりは、季節ごとに、ジェラートにしたいと思える果物があるという感じなんです。『この果物を使ったら絶対おいしいジェラートができるよな』って」そしてその結果、いつの間にか、旬の味を楽しみにたびたび通うファンがずいぶん増えた。ジェラートショップが営業を始めてから、本町通りを歩く人の姿が多くなった、という声も聞こえてくる。

「この商店街がもっとにぎやかになればいいな、という思いはもちろんあります。でもそれは私の店だけではできません。だから、この町で挑戦したいことがある人はぜひやってみてほしいですね。困難はありますが、サポートしてくれる人が必ずいますから

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2017年6月7日

プロフィール

渡邉敬久
  • 渡邉 敬久(わたなべ よしひさ)
  • 1976年塩竈市生まれ。同市本町で母親が経営する果実店を家族と共に切り盛りする傍ら、2016年、果実店の近くに果物を使ったジェラートの店をオープン。ほかに、本町商店街の活性化をめざす「本町通りまちづくり研究会」のメンバーとしても活動する。
  • 店舗情報
  • 店名:Gelateria Fruits Laboratory (ジェラテリア フルーツラボラトリー)
  • 住所:塩竈市本町3−5
  • 電話:022-349-4952
  • 定休日:月曜日(祝日の場合は営業、翌日休み)
  • 営業時間:10:00〜18:00