菊田樹子

塩竈市出身の写真家・平間至さんが中心となり2008年にスタートした「塩竈フォトフェスティバル」が、2018年3月に6回目の開催を迎えた。第1回からフェスティバル運営の指揮をとるとともに、企画・展示を演出する菊田樹子さんに話を聞いた。

塩竈で人と出会い、町に興味が湧いた

菊田樹子ヨーロッパを中心に写真の展覧会などの企画を手がけていた菊田さんに、塩竈での写真イベントの計画を平間さんが持ちかけたのは2006年のこと。話を受けて塩竈を訪れた菊田さんは「ここでなら絶対に面白いフォトフェスティバルができる気がした」という。その最大の理由は、菊田さんが塩竈で出会った「人」にあった。

「最初にお会いした市役所の方々がとても自由な発想を持っていて、私も一緒にお仕事をしてみたいと思ったんです。町で出会う方々も個性的で、少しお話をしただけでもあたたかく受け入れてくれるような印象でした。そんな魅力的な人たちが暮らすこの町に、強く興味が湧いたんです」と菊田さんは振り返る。

「ポートフォリオ・レビュー」へのこだわり

菊田樹子塩竈フォトフェスティバルの構想に入った菊田さんがこだわった企画が「ポートフォリオ・レヴュー」だ。写真作品を公募し、作品を応募した人と、レヴュワー(写真家やアートディレクターなどの専門家)が、1対1で作品を見て話をする。当時の日本ではあまり取り入れられていなかったスタイルだが、ヨーロッパでその面白さを経験していた菊田さんは塩竈フォトフェスティバルでの実施を提案し、平間さんもすぐに賛同した。

「写真作品はそもそも万人受けするものではありません。だから、自分の作品がいかに理解されないかということを知ると同時に、自分の作品を理解してくれる人に出会うことがとても重要だと思うんです。塩竈のポートフォリオ・レヴューは、レヴュワーがアドバイスするだけの場ではなく、作品と人、人と人が出会う場所なんです」

そう話す菊田さんの思いは形になり、「ポートフォリオ・レヴュー」は塩竈フォトフェスティバルを強く特徴づける企画として続いている。

写真フェスの意義を問い直し続ける

菊田樹子塩竈フォトフェスティバルの構想が動き出してから10数年。開催も回を重ねる中で、菊田さんと平間さんはフェスティバルのあり方について幾度も話し合ってきた。そして6回目の開催となる今も、「都市の価値観とは違う価値に気付けるようなフェスティバルにしたい」という2人の思いは変わらない。

しかしその一方で、2011年の東日本大震災を経て、菊田さんが重視するようになったことがある。

「震災のあと、写真が大きな役割を果たしました。その中で、人々が写真について気づいたことがあると思うんです。それは、芸術としてだけではなく、人の生活とか人生に密着した近いところに写真はあるということ。そんな写真のあり方について、フェスティバルを通してあらためて考えられたらと思います」

なぜ人は人を撮るのか

菊田樹子今回の「塩竈フォトフェスティバル2018」のテーマである「自己と他者」について、菊田さんはこう話す。

「写真家の作品に限らず、人が被写体となる写真はとても多いですよね。でも、なぜ人は人を撮るのか。なぜ人は、人が写っている写真を見てしまうのか。その疑問が私の中にずっとありました。今回のフェスが、それを考えるきっかけになればと思ったんです」。


そしてここでも菊田さんは「出会い」と口にする。

人が写真に写っているということは、カメラを媒介にして人と人が出会っているということ。人と人とが出会ったときに生まれる喜びとかちょっと不思議な感覚みたいな、そこから自分の中に生まれる変化やささやかな希望のようなものたときに生まれる喜びとか、ちょっと不思議な感覚みたいなものを、今回の展示を通して感じてもらえたらいいですね」

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2018年3月6日

プロフィール

菊田樹子
  • 菊田樹子
  • インディペンデント・キュレーター
    東京都出身、同地在住。
    ボローニャ大学視覚芸術学科で学んだ後、インディペンデント・キュレーターとして活動を始める。これまでに、日本とヨーロッパで90以上の写真・現代アートなどの展覧会を企画。2002年より「日本に向けられたヨーロッパ人の眼・ジャパントゥデイ」写真プロジェクト、2008年より塩竈フォトフェスティバルのアーティスティックディレクター、2016年よりKanzan gallery(馬喰町・東京)のキュレーターを務める。近年の編集に鷹野隆大の「光の欠落が地面に届くとき 距離が奪われ距離が生まれ(2016年、edition.nord)など。訳書に『マグナム・コンタクトシート』(青幻舎、2011年)などがある。
  • イベント紹介
  • 塩竈フォトフェスティバル2018
  • 期間:2018年3月7日(水)〜18日(日)
  • 場所:塩釜市内各会場
  • 詳しくはチラシまたはウェブサイト参照