浅野友理子

東北地方の山間部や海辺の町を訪れ、その土地の暮らしやそこに住む人々の記憶を題材にして作品を描いてきた浅野友理子さん。浅野さんが塩竈市の浦戸諸島をテーマに描いた4枚の絵が、2016年、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」で展示された。

「実家の近くに海があったな」。そんな思いから浦戸に通い始めた

浅野友理子宮城県多賀城市出身のアーティスト、浅野友理子さんが塩竈市の浦戸諸島をテーマとした作品を描き始めたのは、2015年。それまでは主に山間地域の暮らしを題材にして創作活動をしていたが、塩竈のギャラリー、ビルドスペースの高田彩さんに「海辺の暮らしを描いてみませんか?」と勧められたことが転機になった。

「出身地の隣町である塩竈は、子どもの頃から習い事や釣りなどで来る機会が多かったので、私にとってなじみの深い町でした。高田さんの言葉をきっかけに、身近な海を意識するようになり、浦戸の島に何度も足を運ぶようになりました。海と関わりながら暮らす人たちの話を聞くうちに、より塩竈への愛着が深まってきましたね」

島で聞いた話を作品にして人に伝えたかった

浅野友理子学生時代から東北各地の山間地域を訪れ、「自分の中でひっかかりのあったもの」について現地の人に尋ね、その話をもとに作品を描いてきた浅野さん。今回、浦戸諸島を題材として4枚の絵を完成させた。

4枚のうち、浅野さんがメインと位置付けるのが横3600㎜、縦1900㎜の「種の収穫祭」。菜種が白菜になり、菜の花になり、また種を収穫する、その循環を1枚の画面に描いたものだ。

「浦戸では仙台白菜の種を島外に出荷して生計を立てていたという話を聞き、この作品が生まれました。脈々と受け継がれ、繰り返されていくようなイメージで描きました」と浅野さんは話す。

他の3枚も、島での暮らしや生業が題材になっている。そのうちの1枚、カキの殻むきをする女性たちを描いた「殻むき女、脈々と」は、あえて目鼻を排した女性たちの表情から港町の活気が伝わってくる、印象的な作品だ。
「登場する女性たちの中に主人公はいないんです。そこで出会った文化そのものと、ひとつの共同体を描きたいと思ったからです」

人に伝えたくなり、その衝動で絵を描いている

浅野友理子今回浅野さんが描いた4枚の作品はすべて、訪れた浦戸諸島で浅野さんが聞いた話がもとになっている。

「島に行くと、島で暮らすおばあさんによく出会います。おばあさんに昔の話を聞くと、彼女の子どもの頃や若い頃の記憶を思い出しながら話してくれます。その話を聞いて、私は活気のある島の様子を思い浮かべます。浦戸には自然と直接関わりのある生活文化が今も多く残っているのですが、途絶えかけている慣習や風俗もおばあさんの記憶の中で生きているんです。昔の話を聞くと、つい人に伝えたくなり、その衝動で絵を描いているような気がします」

塩竈は自分にとって特別な町。これからも関わっていきたい

浅野友理子「いろいろな地域を訪れて作品の題材にしていますが、自分の地元に近い塩竈には特別な思いがありますね」と話す浅野さん。作品制作にあたって浦戸を中心に塩竈を歩く機会も多くなり、「人が元気で活気のある町」という印象を持ったという。

「私が塩竈で出会った人たちも素敵な人ばかり。いろいろな分野の人が集まって力を発揮することで、どんどん面白いことになっていく気がします。私が今回描いた題材は塩竈や浦戸のほんの一部。もっと調べて、いろいろな話を尋ね歩きたいですね」

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2016年5月4日

プロフィール

浅野友理子
  • 浅野 友理子(あさの ゆりこ)
  • 1990年宮城県多賀城市生まれ。山形県在住。2013年東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コース卒業。2015年東北芸術工科大学大学院芸術工学研究科修士課程修了。現在は上山市の廃校を利用した共同アトリエ”工房 森の月かげ”にて制作活動を行う。2012年国際瀧冨士美術賞第33期奨学生選出。2014年三菱商事アート・ゲート・プログラム奨学生選出。【個展:2014】トチを食べる(アートルームEnoma/仙台)【グループ展:2015】20代新鋭作家による絵画展(せんだいメディアテーク)/三菱商事アート・ゲート・プログラム2014年度奨学生展(GYLE/東京表参道)/東北画は可能か?-地方之国現代美術展-(T-Art Gallery/東京天王洲)/悠々貫々展(ギャラリー専/仙台)【プロジェクト:2013‐2015】ひじおりの灯(大蔵村肘折温泉)

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