アレックス・ドラモンド

塩竈高校で英語教師として勤務していたアレックス・ドラモンドは、母国イギリスに戻り、塩竈のために活動することを選んだ。それは、彼の心の中にしっかりと塩竈を思う心が根付いていたから。優しく、そしてあたたかい塩竈の人々へ少しでも恩返しがしたい。それが彼の行動の原点だった。

イギリスへ帰ろうと決めた理由。

地震当日、アレックスは高校の職員室で入学試験の答案をチェックしていました。「突然の激しい揺れに驚き、すぐに机の下にもぐりこみ、机の脚にしがみつきながら止まらない揺れに不安を感じていました。それから2・3日経っても周辺の情報は少なかったのですが、ある意味よかったのかもしれません。もし、あの時に被害の状況がわかっていたら、より不安になっていたでしょうからね」地震からちょうど一週間経った3月17日の朝、たまたま携帯が電波をひろい、メールをチェックすることができた。そこで、イギリス政府が仙台から東京へ無料のバスを提供しているという情報を得たのだ。「はじめは、日本を離れたくはなかったのですが、イギリスにいる母が心配して、帰ってきてほしいと言われていましたから。それに、帰国すれば、現地で日本への義援金を集めることができるというアドバイスもあり、イギリスでみんなのために何かしらの活動ができるかもしれないと思い、帰国することを決めたのです」

愛するイギリスで、愛する塩竈のために活動

アレックス・ドラモンド

アレックスは、自分へのミッションとして、震災の体験をできるだけ多くの人に話し、それがニュースになるようにしようと決めた。彼はBBCのラジオインタビューや、地域の新聞、地元の学校での講演会、そして、自らも「One Up For Japan」というキャンペーンを立ち上げた。これは、4月1日に1人1ポンド(約130円)を寄付するというもの。 また、日本赤十字社へ送るための街頭募金をショッピングエリアなどで行い、チケットを買ってもらい商品が当たる、宝くじのようなものもスタートさせた。

「とても難しいことでしたが、モチベーションが下がることはありませんでした。もし、イギリスへ帰って何もしなかったら、僕がどれだけ日本や、故郷の塩竈のことが好きだと言ったとしても、それは嘘になり、そして、塩竈の皆さんを裏切ったような気持ちになるでしょう。」

とにかく早く塩竈の人たちに会いたかった。

アレックス・ドラモンド

「僕は被害にあった人々を直接知っている立場でしたし、多くの生徒が津波の被害を受けた地域にも住んでいました。それがいつも頭から離れることはなく、彼らの家族は無事なのか?他に住む場所はあるのか?食べ物は?暖かく暮らせているか?いつも僕の体と心、全体で震災を受け止めていました。だから、僕の中では迷うこともなく、ただ行動するだけでした」

アレックスが集めた義援金は、約3,500ポンド、日本円にすると約45万円。その金額には満足はしているが、もっと集めたかったという気持ちもあったそうだ。「それよりも、早く日本に戻りたいという気持ちがとても強かったので、区切りのいいところで切り上げました。そのお金は様々な地域へ分配して欲しかったので、全て日本赤十字へ寄付しました」

人間はもっと強く生きていける、それを教えてくれる街に。

アレックスがこれほどまでに愛する塩竈。震災から立ち直り、もっともっと愛し続けられる街になってほしいと彼は願う。
「東北で生まれ育った人たちが東北を離れているという話を聞きました。もう二度とその土地に戻らない人たちがいるということは、とても悲しいことです。津波で何もかも失ったうえに、その土地に住むことを恐れ、人々がまた離れていくのはとても悲しいことだと思います。僕は塩竈という街が、この状況を乗り越え、人々が互いにサポートしあう姿をアピールし、人間はもっと強く生きていけるんだということに、できるだけ多くの人が気づいてくれたらいいと思っています

失いかけた日本人の「和」の心。支えあう塩竈の人たちに教えられました。

多くの西洋人は日本人が、このような惨事に陥っても、決して取り乱すことなく冷静さを保つことに驚きを隠せなかった。「もし、西洋で同じような状況が起こればきっと混乱していたでしょう。でも、3.11以前の日本人も「和」の心を失いかけていたのかもしれません。人と人とがつながり、調和して生きることを震災が呼び覚ましてくれたのだと思います。コンビニの外で並んでいる時も、誰もわがままを言わず、物資を自分だけ多く貰おうとしている人もいませんでした。スーパーのガラスは粉々に割れていましたが、誰も中の商品を盗もうとしていませんでした。日本人はこの震災でより日本人らしくなったのだと思います。地震や津波は大変ひどい爪痕を残したけれど、頭と心を切り替え、震災後がよりすばらしい塩竈になるように、互いに助け合い、共に支えあっていってほしいと願っています。

Text:落合次郎 Photo:大江玲司 取材日:2011年7月20日

プロフィール

アレックス・ドラモンド
  • アレックス・ドラモンド(ALEX DRUMMOND)
  • 1982年生まれ、イギリス・ウェールズ出身。2008年〜2011年塩釜高校にて英語教師として勤務。2011年4月から横浜の3つの公立小学校にて英語教師として勤務する。