ビルド・フルーガス 高田彩

3・11の津波の三日後、ギャラリースペースに戻った高田さんの目に写ったのは、浸水により倒れた什器と展示していた作品が散乱していたギャラリーの光景でした。

お互いが元気になることで一緒に乗り越えよう。

ビルド・フルーガス 高田彩「地震の瞬間、私はこのギャラリーにいました。このビルドスペースは塩竈市港町という場所にあり、津波警戒区域でもあったため、直ぐに警報がなったことを覚えています。父の会社もすぐ隣りにあったため、家族が集結し祖母を抱えて近くのマンションに避難しました。街の人たちも続々と高台の方に避難していたのですが、“本当に津波がくるのか?”という戸惑いを隠せない状況で、ある種異様とも言える時間だなと感じました。

高田さんが主宰する「ビルド・フルーガス」は、ギャラリーである「ビルドスペース」をベースに様々なアート・ムーブメントを展開していました。特に子どもたちを対象にした「飛びだすビルド!のワークショップ」ではいろいろな地域に出向き、そこの子供たちとアートの出合いを創り出すという活動。「今回の震災後、すぐに活動したのがこのワークショップでした」と高田さん。

子どもたちに純粋に楽しめる時間を提供したかった

ビルド・フルーガス 高田彩「震災前は作家とともに、幼稚園や文化施設に行ってワークショップをしていたのですが、私たちが以前行なっていたところは多く被災していました。そういうところにすぐに駆けつけ、最初は物資支援をさせていただきましたが、子どもたちが少しでもストレスを発散できるようなワークショップを行なったり、映画配給会社の方々にご協力いただき、ミニシアターなども開催しました。環境も限られていたので、今までの美術ワークショップはできませんでしたが、私たちも子どもたちも純粋に楽しめる時間を過ごせたのではないかと思います。何よりも、“人に会いたい”とか“身近なところでお互いが元気になっていきたい”と、自分を含め、みんながそう思っていたのではないかと感じました。

活力をもった若い力をもっと街づくりに活かせたらいい。

ビルド・フルーガス 高田彩今までになかった経験をしたので、「美術・アート」と自分の立場というものをすごく考えさせられたと高田さんはこの数ヶ月を振り返ります。「とくに、本当の意味での“文化振興”というものや、『どういった人々と、この時代を生きていくのか? 』ということを考えさせられました。私はアートに携わっていますが、一緒に関わっていくアーティストの“質(価値観や意識)”を共有していかないと、これから意味のある“文化づくり”、“人づくり”はできないんじゃないかと気づかされました。アートを媒体に生きる人々がまわりにいてくださっているので、今は人のこと・街のこと・世界のこと・地球のことを考えながら、それを強みにして希望を持って活動していきたいなと思います」そういう活動をここ塩竈で行なっていくこと自体に価値を見出したいと高田さんはいいます。

「塩竈は人口5万6千人程度の小さい町で、漁港という側面や、鹽竃神社という社(やしろ)の文化があります。小さい町なんですけど、あらゆる人が町の財産を活かそうと頑張ってきた町です。自分のネットワークで経済的な復興に貢献できるかどうかわからないのですが、自分と同じように活力を持って頑張る若者とは、凄く対話ができると思っているので、若者に対して強く共感者を求めています。例えば、文化においても人のエネルギーが必要な町づくりをするときには役立てるようにしたいなと思っています。何をするにも、今若者が動かないとエネルギーが続かないというか。20~30代の方って、これから動き出したばかりですし、身軽な立場であり、これからを背負っていく立場でもあるので、怖がらずにフットワーク軽く動ける人材をビルドを通して集めていきたいです。それはもちろん外部からでもいいですし、一度塩竈を離れた若者でも良いと思っています。塩竈にエネルギーを落としこんでいくような活動をしていきたいと思っています。「塩竈っていいなぁ」と、愛おしくなる瞬間が震災後多くなったので、今こそ自分ができる若者の集結を図っていきたと思います。

いわゆる、アート活動している人だけがアーティストではない

ビルド・フルーガス 高田彩また、高田さんは「私は人の力を信じているので、どんなジャンルの方々でも力になってくれると思う」と話します。「決して、アート活動をしている人たちだけではなく、漁業、商業、農業など色々な立場で生きている人たちが、お互い共感できる場を作りたいんですよね。アート=作品ではなく、それを生み出す発想力や機動力の力もあるんですよ。その方々が「今、被災地に対して何ができるか?」ということもすごく考えてくださっていると思うので、その方々に向けて声を発していくのが私の役目だと思っていますし、その声をぜひともキャッチしてほしいと感じています。例えばOLだったら、被災地の彼女たちが必要としていることは何かとOL同士で考えて支援するなど、それぞれの立場で相手を思い続けていただけると、ありがたいです。なので、声をずっと聞き続けて欲しいですね。これは私が被災地にいて、凄く感じていることなのです。それが果たして経済的支援なのか、それとももっと文化的なことなのか、それはそのときのニーズによるとは思いますが、何よりも私たちのことを思ってくださること自体が、ありがたいと感じているので、ぜひとも思い続けて欲しいと思っています。

塩竈という街が人々の交流、世界との交流でもっと活気ある街になってくれれば嬉しい。

もともと高田さんがアートに携わりたいと思ったのは、アートの力を借りて、社会を少しでも楽しく生きていきたいという思いです。不安な社会の中で、これからどのように生きていくか考えてる人も多い。そういう不安と直面しつつ一瞬一瞬でも楽しい時間と記憶づくりをしていきたい、という思いがビルド・フルーガスが動き出した理由の一つなのだそうです。「知らず知らず、人生進んじゃってる?」みたいなものを、ワークショップだったり、人と人との楽しい交流イベントを作り上げることなどで飾っていければ、自分も楽しいと思いますし、そのためにアートを活用していきたいと思っています。

私にとって美術作品はとても身近な物なので、港町にあるビルドスペースでこれからもずっと良いと思う作品を展示していこうと思っています。そして、海外にも広がるネットワークを活用して、ここから生まれる何かを信じ、もっともっと進んでいきたい。みなさんにも、今まで通りどんどん塩竈に来てほしい。とにかく楽しい瞬間づくりをしていきたいですね」

text:落合次郎 photo:大江玲司 取材日:2011年6月29日

プロフィール

ビルド・フルーガス 高田彩
  • 高田 彩(たかだ あや)
  • ビルド・フルーガス 主宰
  • 1980年 宮城県塩竈出身。カナダ・バンクーバーのエミリー・カー美術大学卒。バンクーバー在住時、オンラインマガジンSHIFTバンクーバー記者として、現地の若手アーティストやバンクーバーのアート情報を発信する。北米アートの紹介やアーティストネットワーキングのビルド・フルーガス代表、2006年宮城県塩釜にbirdo spaceをオープンする。
  • 〒985-0016 宮城県塩釜市港町2-3-11
  • ビルド・フルーガス http://www.birdoflugas.com/