
2026年夏、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」で、多賀城市在住の版画家・あるがあくさんの個展「木漏れ日蒐集」が開催されている。10点の版画作品からなるこの展示について、あるがさんに話を聞いた。
感情の揺れ動きを版画で表現
版画家としての自身の創作のテーマについて、「人はみんな、自分の内側に、言い表し得ない感情の揺れ動きを持っている。その『もやもやしたもの』『ぐちゃっとしたもの』を外に出してみたいと思っています」と話すあるがさん。かつては抽象度の高い作品で表現することが多かったが、近年は、より鑑賞者に伝わりやすい表現の試みとして、感情の揺れを木漏れ日に投影した版画作品シリーズ「木漏れ日蒐集」の制作に取り組んでいる。2026年の「Voyage」の個展「木漏れ日蒐集」はその一環に位置付けられるものだ。
木漏れ日の写真をもとに版を作成
あるがさんは「Voyage」の個展「木漏れ日蒐集」に木版画とシルクスクリーン(※)を併用した版画作品10点を配した。各作品の「版」は、鹽竈神社や杉村惇美術館など自身に馴染みのある場所で木漏れ日や木々の写真を撮影し、そこに写った形の一部を複製して図案に取り入れたり、写真と記憶をもとに手で描いたりして作成した。
「神社や美術館を訪れたときの自分の感情の動きを振り返ったり、それぞれの場所を訪れる人々の思いを想像したり自分に置き換えてみたりしながら、自分がその場所で受けたイメージのようなものを1枚1枚の版にのせていく」とあるがさん。そのようにしてできた複数の「版」を用い、1作品につき10回以上の「刷り」を重ねた。
「人の気持ちには層があると思っています。自分で言葉にできるぐらいの分かりやすい感情もあれば、心の奥底にしまっておきたいものや、自分でもちゃんと把握できないものもある。それらの層が混ぜこぜになった『混沌としたもの』を、版の重ね合わせによって表現しようとしています」
※シルクスクリーン:細い繊維を網目状に張ったものに絵柄を施して版とし、インクを透過させて紙や布などに写し出す版画技法。
生活者としての視点を重視
「Voyage」の展示に向け、あるがさんは木漏れ日を採取する地域を自身の生活圏内に限定し、杉村惇美術館をモチーフとした「sensibility」や、多賀城市の自宅兼工房で採取した木漏れ日を軸とした「my room」などの作品として仕上げた。
今回の一連の制作について「生活者の1人としての視点を大事にした」と話すあるがさん。その姿勢が最も明確にあらわれているのが、古い屏風を活用し、鹽竈神社をイメージして作成した「I pray that you will be happy」だ。会場の壁面に展示された作品と比べ、より鑑賞者に身近な存在としてそこにある。
「屏風は生活の中で使われるもの。作品と生活との距離の近さを感じてもらえたら」
あるがさんは今回の展示について次のように話す。
「神社で感じた風の気持ちよさや、美術館を訪れるたびに感じる安心感などを含め、地域に対する私自身の愛着が作品にあらわれたと思う。展示を見てくれる人にとって、自分の生活を振り返ったり、いろいろなものを内に抱えながら日常を生きている自分を少し肯定したりできるような機会になったらうれしいですね」
Text & Photo:加藤貴伸 取材日:2026年7月22日
プロフィール

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- あるがあく(ARUGA Aku)
- 版画家。1987年宮城県多賀城市出身、在住。2011年東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コース版画専攻卒業。木版画やシルクスクリーンなどの版画技法を用いて、揺れ動く感情を表現する。日常に起こる内面の変化と、それらを抱えながら生きる人々に注目し、日々の営みの肯定を試みる。2016年より仙台美術研究所版画講座講師。2022年より多賀城市にて版画工房ギャラリー「在るprint studio」を主宰。美術鑑賞と創作の場を提供している。
- https://www.instagram.com/arugaaku/
