渡辺誠一郎

2021年11月、塩竈市港町のビルドスペースで「渡辺誠一郎展 俳句と写真 句集『赫赫』+紀行集『俳句旅枕 みちの奥へ』より」が開催された。自身の創作活動の傍ら、俳誌の編集、俳句コンクールの運営などを通して俳句文化の発展にも尽力する渡辺さんに、俳句と地域について話を聞いた。

東北に住み、東北を詠む

渡辺誠一郎2021年11月に開催された個展で渡辺さんは、句集『赫赫』(深夜叢書)に収録された14句と、紀行集『俳句旅枕 みちの奥へ』(コールサック社)に掲載された写真18枚を展示した。

渡辺さんの俳句作品は、渡辺さん自身が暮らしてきた塩竈をはじめとする東北地方の風景や出来事を背景としたものが多い。また個展で展示された写真は、渡辺さんが2017年ごろから『俳句旅枕』の取材で東北地方を巡り歩いたときに撮影したものだ。

「私はずっと東北に住み、東北の人間として俳句を詠んできました。その東北の全体が、東日本大震災で大きく揺り動かされ、私自身も強烈な体験をしました。だから『俳句旅枕』の取材当時の私には、自身が俳句を詠む足場でもある東北という土地をもう一度確かめたいとの思いがありました」

俳句を通して経験を内面化する

渡辺誠一郎渡辺さんが俳句を始めたのは30代の頃。塩竈市内で活動していた俳人・佐藤鬼房との出会いがきっかけだった。それから30年以上、渡辺さんは俳句による表現を続けている。

自分が見聞きしたものの本質に近づくための一つの手段なんじゃないかな。美しいものを詠むことでその美しさに同化したいという気持ちの場合もあれば、災害の傷跡を句にすることで現実を受け止める、という方向性の場合もあるけど、詠むことを通して経験を内面化する、という意味では同じなんだと思います」

また、俳句の活動をするうえで、塩竈は魅力のある土地だと渡辺さんは言う。

塩竈には、古くから人が根付き、暮らしてきた。鹽竈神社という精神的な拠り所がある一方で、江戸時代には遊郭が栄えた。近代は鉄道、港ができて、色々な人が集まって、爆発的に町を作った。多様な歴史の記憶が濃密に堆積している町だから、面白いんだと思います

俳句文化を次世代に

渡辺誠一郎渡辺さんの活動は、自身の創作にとどまらない。佐藤鬼房が1985年に始めた俳誌『小熊座』では1996年から2021年まで編集長を務め、また2008年度からは「佐藤鬼房顕彰全国俳句大会」(2017年度まで)、2018年度からは「佐藤鬼房記念 塩竈市ジュニア俳句コンクール」の運営の中心となって全国から俳句作品を募っている。市内の小中学校に出前授業に赴き、俳句の指導を行うこともある。

近年特に力を入れている子どもたち向けの取り組みについて、渡辺さんはこう話す。

「俳句は子どもたちにとって、文章を書いたり絵を描いたりするのと同じように、あるいはより手軽に、自分を表現する手段になりえます。俳句の力によって子どもたちが自分と向き合ったり、自信を持ったりできる、そういうお手伝いができればいいですね。松尾芭蕉が訪れ、佐藤鬼房も暮らしたこの地の文化的土壌を感じながら、俳句に親しんでほしいです」

text & photo:加藤貴伸 取材日:2021年11月18日

プロフィール

渡辺誠一郎
  • 渡辺誠一郎
  • 俳人
  • 1950年塩竈市生まれ。
  • 俳人佐藤鬼房に師事。「小熊座」前編集長
  • 句集『地祇』『赫赫』など
  • 『俳句旅枕 みちの奥へ』『佐藤鬼房の百句』
  • 第14回俳句四季大賞、第70回現代俳句協会賞
  • 朝日新聞社「みちのく俳壇』選者