須藤健志

塩竈市本町にある洋服仕立て・直しの店、本町北谷(もとまちちゃたん)。かつて履物店だった店舗を活用した店内に、色とりどりの糸や古着が並ぶ。店主の須藤健志さんが、仕事への思いを率直に語ってくれた。

店の方向性が定まらずに悩んだ

須藤健志本町北谷がオープンしたのは2012年の10月。須藤さんが34歳の時だった。

「服が好きで古着店としてオープンしてみたものの、自分が何屋をやりたいのか、正直、ぼんやりとしていた部分がありました」

オープン当初から経営は振るわず、資金繰りに悩んだ須藤さんは中古品を扱う会社に就職した。自分の店は勤務の後や休日に開けるのみとなり、「営業してるのかしてないのかわからない状態」に。時々のぞいてくれるようになっていた客も離れていった。

2年間の会社勤めで仕入れのノウハウなどを学んだ須藤さんはその後、利幅の大きい貴金属を取り扱うなど、営業の方向性を試行錯誤した。しかし店で何を売っていても、須藤さんの手は洋服の加工や補修から離れられなかったという。そして2016年の秋頃、こう気付いた。

「もしもこの店が失敗して、住む場所をなくしたとしても、自分は服を作ったり直したりしているんだろうな、って。それ以外の自分がどうしてもイメージできない。だから、『これでいこう』って、やっと定まった気がします」

塩竈での出会いが自分を変えた

須藤健志須藤さんは青森県田舎館村の出身。弘前市の高校を卒業して仙台市の職員となり、住宅関連や土地区画整理などの業務に携わった。仕事にやりがいは感じていたが、服飾への関心も強く、20代前半の頃には働きながら専門学校の夜間課程に通って服飾の技術と知識を身につけた。

「いつかは必ず服飾の仕事を、という強い気持ちがあったわけではないんです。自分の趣味の範囲でした」

須藤さんが塩竈で暮らし始めたのは2011年の1月、33歳の時だ。

「ちょうど好みの物件が塩竈にあった。だから転居先が塩竈だったのはたまたまなんです」

「たまたま」移り住んだ塩竈で、さまざまな出会いが訪れた。

「彫刻家や工芸家、写真家など、自分の技術で暮らしを立てている人が塩竈にはたくさんいるということを知り、実際に出会う機会も多くなりました」。

彼らの存在に触発された須藤さんは2012年3月、16年間勤めた役所の職を辞した。「たとえ失敗しても、やりたいことをやろう、って思ったんです」

町の人たちに支えられて続けてきた

須藤健志須藤さんに話を聞いたのは2017年の4月。昨秋以降、営業の方向性が定まったとは言うものの、経営は今も楽ではない。それでも続けていられるのは町の人たちのおかげだと須藤さんは言う。

経験豊富な職人さんがいるお店が他にあるのに、わざわざ僕に服の直しを依頼してくれる人がいます。近くの商店の店主さんが、お客さんに僕の店を紹介してくれることもあります。市内の同業者が材料の仕入れ先を紹介してくれることさえありました。助けてもらってばっかりですね」。だから、何かの形でこの町に報いたい。

「でも僕の仕事は、お客さんの好みに合わせて服を仕立てたり直したりすること。それしかできない。だから、わざわざこの店に来てくれるお客さんの希望に答えられるよう、もっと技術を磨きたいです」。結局のところそれが、いつも本町北谷を気にかけてくれる町の人たちへの恩返しにつながると、須藤さんは信じている。

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2017年4月24日

プロフィール

須藤健志
  • 須藤 健志(すとう たけし)
  • 1977年青森県田舎館村生まれ。高校卒業後に仙台市の職員となり、2012年3月に退職。同年10月に塩竈市本町に古着店・本町北谷をオープン。現在は洋服の仕立て・直しを軸に営業している。
  • 【店舗情報】
  • 店名:本町北谷(もとまちちゃたん)
  • 住所:塩竈市本町5-9
  • 電話:022-781-9985
  • 営業時間:9:00〜20:00
  • 定休日:なし(臨時休業や不在の場合あり)
  • 【料金例(税込)】
  • パンツ裾上げ500円〜、ファスナー交換2000円〜(材料費別途)など