CHAIR BANK

鹽竈神社の表坂近く。作業場で椅子の修理作業に没頭する職人たちの中に、志鎌さんと杉原さんがいる。経歴は大きく異なる二人だが、椅子張りという仕事を志す駆け出しの職人という点では同じだ。日々技術を磨き続ける二人に思いを聞いた。

「椅子張り」に魅せられて門を叩いた

CHAIR BANK杉原さんが愛知県の家具メーカーを退職したのは2016年の春。就職して4年、おもに担当していた営業の仕事にやりがいを見出せず、現場の椅子張り職人の仕事に憧れるようになっていた。

杉原さん「大量生産するメーカーではありましたが、大事なところは職人が手作業で仕上げるんです。営業側からの注文に『任せとけ』って答える職人さんの姿がかっこよかったですね」退職した杉原さんは同年6月、チェアバンクに職人見習いとして入社した。

一方の志鎌さんの入社は杉原さんより1年早い2015年の6月。それ以前から客として店に出入りし、古い椅子を蘇らせる仕事に魅せられていた。

志鎌さん「初めてお店に来た時に衝撃を受け、その夜は眠れませんでした。こんな仕事があるのか、と。しばらくして求人が出ているのを見つけ、何かお手伝いできることがあるかと思い面接に来ました。正直、職人を目指すつもりはなかったんです。でも面接をしてくれた親方にその場で勧められ、『やるなら今しかないな』と思いました。目標を持って働く母親の姿を子どもに見せたいという気持ちもありましたね」

職人として誇れる仕事をしたい

CHAIR BANK職人として訓練を始めて2年の志鎌さんと1年の杉原さん。二人が「どの作業を担当しても、なんとか親方のOKが出るような水準まで持っていこうと精一杯」と口を揃えるように、技術の修得への道は険しい。しかしそれでも、二人ともすでにこの仕事にのめり込んでいる。

杉原さん「お客さんが託してくれた大切な椅子を張り直して納品したときに、『生き返ったね!』と喜んでもらえると、やっぱりうれしい。もっと腕を磨こうと思えるんです」

志鎌さん「張り替えたことで、その椅子に対するお客さんの思い入れが深くなる。自分が携わった椅子がまたお客さんのお宅で生きていくんだな、と思えるのがよろこびですね。だからこそ、自信を持って『長く使ってください』と言えるような仕事をしたいです」

職人としては、二人ともいわば「駆け出し」。しかし当然ながら、お客さんが託してくれた一脚一脚の仕上がりに妥協は絶対に許されない。それがわかっているからこそ、二人は必死で腕を磨く。

目標を胸に、目の前の作業に全力

CHAIR BANK職人の道を志す二人にとって大きいのが、親方の存在だ。

志鎌さん「正直なところ、私がした作業を親方に直してもらってしまうことも多いんです。せっかく職人として採用してもらったからには、なるべく早く、この作業なら私に任せて、と言える工程を増やしたい。それが当面の目標です。日々、親方の仕事を真似しながら、ひとつひとつ丁寧に取り組んでいこうと思っています」

20代半ばで職人の道に飛び込んだ杉原さんは、将来的には独立したいとの思いもあるという。

杉原さん「面接のとき親方は、『独立を目指して』と言ってくれました。そして実際、営業や納品も含め、1脚の椅子をお客さんに届けるまでのすべてを経験させてくれています。一人前の職人に育てようとしてくれているんですよね。その思いに応えるためにも、まずは目の前の作業に全力を尽くし、親方に納得してもらえる状態に仕上げられるように頑張っています」

text:加藤貴伸 photo:大江玲司 取材日:2017年6月21日

プロフィール(CHAIR BANK)

CHAIR BANK
  • 志鎌 喜子(しかま よしこ)
  • 1974年、宮崎県生まれ。富山県を経て14歳で山形県天童市に移住。工場勤務や医療事務を経験し、37歳のとき、夫の転勤で多賀城市に移住。40歳でチェアバンクに入社。
  • 杉原 正樹(すぎはら まさき)
  • 1990年、埼玉県越谷市生まれ。高校卒業後に京都の大学に進学し、卒業後は愛知県の業務用家具メーカーに就職。営業職を4年間勤めた後に退職し、26歳でチェアバンクに入社。