工藤玲那

2022年夏、塩竈市杉村惇美術館の若手アーティスト支援プログラム「Voyage」の企画として、宮城県出身の工藤玲那さんの個展「アンパブリック マザー アンド チャイルド」が開催された。この個展は作家本人にとって、母親との関係性を問い直す試みでもあった。

制作を通し、新たな関係性を模索

工藤玲那展示室の奥に控えめに置かれた小さなブラウン管に、何らかの生き物をかたどったような物体が2体、映されている(作品名「友達にはなれないかも」)。「Voyage」のパンフレットにも掲載されているこの2体は、玲那さん自身と玲那さんの母親(以下・リャンさん、上海出身)を表現したキャラクターだ。画面の中で2体は、屋外にただ並んで浮かんでいるだけで、互いに何の干渉もし合っていないように見える。

リャンさんは2020年、宮城県内の自宅(玲那さんにとっては実家)に一人で暮らすようになった。同じ頃、新型ウィルスが流行し、玲那さんがそれまで続けていた海外での制作活動が難しくなった。以降、玲那さんはリャンさんが暮らす家に帰る機会が多くなり、二人のやりとりも増えた。玲那さんは母との新たな関係性を見出すきっかけとして、リャンさんと共同で作品制作を始めた。

土地に残る物語に重ね合わせた

工藤玲那塩竈での展示を前提に制作を始めた玲那さんは、塩竈市白菊町にある「母子石」の物語に着目した。古代、多賀城政庁建設時に人柱となった男の妻と娘がその石の上で嘆き続けて死んだ、と伝わる。

背景や事情は違うけれど、母と子の二人、という状況が最近の自分と重なった」と玲那さん。石の上で飲まず食わずで亡くなった母子の姿と、リャンさんが生業としてきた料理という営みが玲那さんの中で結びつき、「母子石」の拓本を印刷したシートの上で食事をすることで古代の母子を供養するというイメージを表現した(映像作品「食卓を捧げる」)。

展示室に置かれている4体の立体作品も「食卓を捧げる」の中で玲那さんとともに食事をしているが、この4体を玲那さんが「陶器」とよぶのは、リャンさんの料理を盛り付けることを意図して造形したものだからだ。

「わかり合えない」の解像度が上がった

工藤玲那玲那さんは帰省中のリャンさんに上海での映像撮影を依頼し、日本で撮影した映像と組み合わせて映像作品「石の温度」を制作した。同作内では制作過程における玲那さんとリャンさんのやりとりが描写されている。玲那さんがかねて抱えていた疑問を率直に投げかけ、リャンさんが真摯に答える様子は、互いの理解が深まる過程のようにも見える。しかし玲那さんは言う。

相手が母だからこそ、もどかしい思いをしながら制作していました。そして、たぶん母も同じように感じていたと思います。コミュニケーションを重ねて互いの『わからなさ』の解像度は上がったけど、でもやっぱり、『わかり合えた』わけではないんだと思います

冒頭の映像作品「友達にはなれないかも」は、自身とリャンさんを仮想の世界に置き、二人が親子でなかったらどのような関係性になるかをシミュレーションしようとしたものだ。同作の画面をあらためてのぞき込むと、二人はいま現在もなお、互いの距離感、関係性を見定めようとしている最中のように見える。

※会期途中の8月中旬、展示の一部が入れ替わる予定です。

Text:加藤貴伸 Photo:大江玲司  取材日:2022年7月16日

プロフィール

工藤玲那
  • 工藤玲那(くどう れな/Rena Kudoh)
  • ビジュアルアーティスト。1994年宮城県出身。2017年東北芸術工科大学芸術学部美術科洋画コース卒業。様々な土地を転々としているうちに混ざりあうアノニマスな記憶、捨てきれない幼い頃の自分、唐突な夢…、個人的な混沌をベースに、絵画や陶芸、ドローイングなどの表現で、見たことがあるようで見たことがない世界をつくり出している。現在は拠点を持たず、アジアを中心に各地に滞在、横断しながら制作している。
  • https://www.renakudoh.xyz/